フランスに日本は学べ
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/europe/news/20060405k0000m030157000c.html
フランス:硬直した雇用制度などが混乱の背景に 若者反乱
【パリ福井聡】
フランス政府の若年者雇用促進策「初期雇用契約」(CPE)の撤廃を求める労働組合、学生団体、野党は4日、全土で大規模ストライキとデモを実施した。全国ストは3月28日に続く第2波。労組側によるとデモには前回並みの全国で約300万人が参加した。与党・国民運動連合は4日、労組・学生側との初の直接交渉を5日から行うと明らかにしたが、学生の全国組織は6、7の両日にも抗議行動を予定。2カ月に及ぶ混乱が収束するめどはたっていない。混乱の背景には、就職すれば手厚く保護される仏特有の硬直した雇用制度や、街頭行動で政策変更を迫る国民意識なども指摘されている。
◇「より多くの職」に不信
パリで中学の臨時教師をしているサランゲ・ディアロさん(27)は、パリ大学法学部を卒業後、出版社の法律部門での就職を目指した。しかし、この部門での求職は少なく、二十数社に願書を出して面接できたのは1社のみ。それも「担当者の産休中の一時雇用」だったため断念した。今は税務署職員になるための試験に向け準備をしている。しかし、フランスでは民間の希望職種に就けず、より確実な公務員試験を受ける学生が急増。税務職員試験の倍率も67倍という驚異的な高さだ。
仏全体の失業率は9・9%(05年)だが、26歳未満の若者の失業率は20%を超える。仏はじめ欧州では日本と違い、新卒を雇用して一から訓練するシステムはない。新卒者も既卒者も「社員の退職や転職で空きが出たら採用する」状態。応募者は常に即戦力となる技術を求められ、新卒者はむしろ不利となる。
フランスの学生の多くはインターン生として低賃金または無給で働き、就職の機会を狙う。だが簡単に就職にはつながらない。多くが職探しをしながら失業保険で生活している。
一方、いったん就職できると、手厚い社会保障制度と労働者の権利保護がある。経営者側からすると雇用の経費は高く解雇は容易ではない。
不動産会社経営のジャン・フランソワ・デゼメさん(53)は「CPE(初期雇用契約)実施は歓迎だ。経営者にとっては従業員の解雇は非常に難しい。CPEが導入されれば楽になり、新規雇用にもつながると思う」と話す。
雇用促進策・CPEは「試用期間中は理由なしで解雇できる」制度。「若年労働者の解雇を容易にし新規採用も容易にする」狙いだった。だが、失業保険など国の手厚い制度を当然と受け止めてきた若者たちは、「CPEがより多くの職を創出する」と言われても信用できず、「より簡単に解雇される」との不安が先行してしまうようだ。
経済協力開発機構(OECD)のジャンフィリップ・コティ主任エコノミストは「保険のアクサ、航空機のエアバス、小売りのカルフールや高級ブランドなど、フランスの優良企業は十分グローバル化に対応している。問題は生産効率の悪い未熟練労働力が手厚く守られすぎている労働構造だ。労働者の中で未熟練労働者の割合が高すぎる」と指摘する。【パリ福井聡】
◇欧州各国と風土違い
仏全土で約300万人が抗議デモをした先月28日、英国でも年金改革に反発する公務員約100万人が1926年のゼネスト以来という大規模なストを実施したが、ストは平穏に終始した。英テレビは「街頭で政策変更を迫るのがフランス。わが国は議会を通じて野党が反対意見を代弁する」とコメントした。
05年の失業率が11.7%とフランスを上回るドイツでも今、労働者の試用期間を現行の半年から2年に拡大する労働市場改革案が議論されているが、仏のような激しい抗議行動はない。独シュピーゲル誌は「暴動の仏、静粛な論議の独」と対比して皮肉った。
68年の反戦学生デモや90年代の農民による市場開放反対運動など、「怒れる若者」「怒れる農民」らの過激な行動は仏の伝統だ。英ウォーリック大学のヤン・アト・ショルタ教授は「フランスは学生や労組、農民、民衆が組織的に行動すれば政治の流れを変えることができるという信念が極めて強い国だ」と語る。
こうした政治風土の違いに加え、中央集権国家の仏は他の欧州諸国に比べ国家の保護を当然視する風潮がある。国民もグローバル化への警戒心が強く、昨年の世界20カ国対象の世論調査で、自由市場経済が最善だと答えた人は仏が各国中最低の36%だった(米71%、英66%、独65%など)。英エコノミスト誌最新号は「仏の政治家は過去20年間、なぜ仏が(グローバル化に)適応する必要があるのか有権者に率直に説明することを怠ってきた」と指摘し、そのツケが回ってきたのが今回の騒動と見る。
労働市場流動化は欧州連合(EU)の経済・政治統合のため避けて通れない流れ。バローゾ欧州委員長は仏政府に初志貫徹を促してきた。仏がCPEの頓挫で労働市場改革に背を向ければ、欧州全体の改革にもマイナスに働くとの懸念が各国に広がっている。【ロンドン小松浩】
◇フリーター増?日本に近い形に
若年者の就労問題に詳しい労働政策研究・研修機構の小杉礼子統括研究員は「フランスの場合、フルタイムの労働者が雇用や社会保障の面で手厚く守られてきたため、雇い主側からすればコストもかかり、雇用の入り口を狭くすることにつながった」と分析。「若年の無業者が多くなり、入り口を広げる政策への転換を図った」と指摘する。
そのうえで「政策が実施されれば日本の若年者の就労状況に近い形になるのではないか」と予測する。日本の場合、景気低迷期に派遣労働やフリーターなど不安定な雇用が増えた。フランスも雇用機会を増やすとはいえ、自由な解雇を認めるため、同様の状況になる可能性があるという見立てだ。
日本は今、団塊世代の大量退職や景気回復によって新卒の正規雇用が増えている。そうした中で問題になるのは「非正規社員やフリーターをいかに正社員として取り込んでいくかだ」と言う。「不安定な雇用のままでは結婚、出産もままならない。雇用の拡大と正社員化のバランスをどう取るかの難しさがある。フランスも同じ問題を抱えることになるだろう」と見ている。【東海林智】
毎日新聞 2006年4月4日 23時34分 (最終更新時間 4月5日 1時08分)
今の日本の惨状を鑑みると、正直、フランス人の心意気が羨ましい。
若い人達の将来の為に、高校生から老人までもが身を張って立ち上がって必死に抵抗している。
省みて、我々日本人はどうだったんだろうか?
「不況なんだからしかたない」「与えられた仕事はきちんとこなさないと」「デモなんてダサい」そんな意識の下で、我々は結婚どころかデートする相手を見付けることすら出来ないくらいに苛酷な労働と低賃金でこき使われ続け、将来どうなるかもわからないような不安定な状況に追いやられてしまった。
そうして「浮かせた」お金は経営者や財界や政治家などに流れ、彼らだけが「勝ち組」としてのさばっている。
我々は、「負け組」のままでいいのか?一部の勝ち組にいつかなれるという幻想を抱いていてもどうしょうもないことはみんなわかっているのでは無いか?
今、我々に必要なのは「勝ち組」も「負け組」も格差の無い社会なのでは無いでしょうか
我々は、フランス人から学ばないといけないことが沢山あるのでは無いか。
そんな言葉がどうしても頭から離れない。