数字の詐術でワーキングプア追い出しを図っている松沢知事
先週17日にあった松沢成文神奈川県知事の定例記者会見(神奈川県による知事発表のサマリーと会見の模様のストリーミング配信あり)*1で、松沢成文神奈川県知事は、去る2008年12月より県営いちょう上飯田団地で受け入れてきた「派遣切り」で解雇・失業した労働者を今月末で追い出すとする方針を一旦棚上げするとやっと表明しました。(プレスリリース)
しかし、質疑応答の中で松沢知事は
- 県営団地の抽選に当選した応募者が待っているから早期に退去して欲しいと考えている
- 聞き取り調査の結果、就職先を決め六月末の時点で退去可能な人が大半を占めており、(当時受け入れた約九十名強に対して)退去できない者は十名を割り込んでいる
- 労働局やハローワークと連携して就職を強く斡旋したいと考えている
- 就職がどうしてもできない人は生活保護を取って(よその民間の)住宅を確保してもらいたい
などなど答えました。
しかし、いちょう上飯田団地は一応横浜市内とはいえ、確か大和市との境界近くで交通の利便があまりよくなく新幹線なども通っている上に老朽化が進んでいる事もあって応募倍率が低い住宅の一つだったよな…と思い出して*2、
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現状の応募倍率はどうなのであろうかと思って少し調べてみました。
応募倍率が低かったいちょう上飯田住宅
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/07/1919/oubojyokyo.html平成20年11月定期募集 応募状況の概要
平成20年11月定期募集のうち抽選対象住戸 987戸には10,036名が応募し、平均倍率は 10.2倍となりました。
なお、選考対象住戸 48戸には154名が応募し、平均倍率は 3.2倍となり、平成20年11月定期募集の抽選対象住戸・選考対象住戸をあわせた平均倍率は 9.8倍となりました(1,035戸に対し、10,190名が応募)。
住宅の種類 等 入居の決定方法 募集戸数の計 [A]応募者数の計 [B]倍率[B/A] 平成20年11月募集 総計 1,035戸 10,190人 9.8倍 平成20年11月募集 抽選対象の計 抽選 987戸 10,036人 10.2倍 平成20年11月募集 選考対象の計 選考 48戸 154人 3.2倍
- 一般世帯向住宅
募集地区名 募集戸数(戸)[A] 応募者数(人)[B] 倍率(倍)[B/A] (計) 833 6,439 7.7 いちょう上飯田A 20 42 2.1 いちょう上飯田B 30 30 1.0
募集地区名 募集戸数(戸)[A] 応募者数(人)[B] 倍率(倍)[B/A] (計) 2 7 3.5 いちょう上飯田J 1 0 0.0
- 一般単身者向住宅
募集地区名 募集戸数(戸)[A] 応募者数(人)[B] 倍率(倍)[B/A] (計) 92 2,164 23.5 いちょう上飯田D 5 129 25.8
※この他の住宅種別はいちょう上飯田住宅では募集自体がなかった
確か、県営住宅の定期募集自体は11月と6月であったので、これが最新の募集状況になると思いますが、
いちょう上飯田住宅に関しては、元々どこでも割り当て戸数が少ない「一般単身者向け住宅」を例外として、非常に応募倍率が低い住宅であった事が数字からも明らかになっています
家賃が相対的に安い公営住宅の常として容易に空き家になりにくいとはいえ充足率が低かったことは事実で、この住宅が派遣切り解雇の労働者にアサインされたのはある意味当然ではあったのですが、それを「既に抽選で選ばれている世帯が入居を待っているから」として、県の住宅当局が被解雇労働者の追い出しを行うことに関して知事自ら奨励するのはお門違いではないでしょうか?
いわゆる「一般世帯向け住宅」=結婚*1してる人のための3(D)K〜4DK程度の住宅について見ると、いちょう上飯田A住宅が募集20戸に対して42名の応募(2.1倍)・B住宅が募集30戸に対して30名といちょう上飯田住宅への入居応募者が非常に少なく*2、今後空き家をアサインしつづけること自体はそう困難ではないどころか比較的容易であろう事は県営住宅の応募などをやったことがある人であればこの数字を見れば容易に想像がつくと思います。
公営住宅への需要に見合わない県・国の政策と知事の思想がかみ合っている
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今、多くの労働者・特に二十代から四十代の労働者として主力になる世代の多くが単身者であったり仕事が不安定であったりなどの理由で県営・市営といった公営の住宅に応募する資格すら持てないでいます。
そして、仕事が安定していない人に対してアパートなどを貸し出す審査も年々厳しくなってきています。そういう住宅が借りられない問題が、所謂「ネットカフェ難民」や急激に増えている野宿者などの問題の根本にあって、そのために住宅を持っていない=決まった住所が持てない人たちは安定した仕事につくこともままならず・極めて劣悪で低賃金で不安定なその日稼ぎの仕事しか取れなくなってしまう、
そうなるとなおさら家を借りにくくなり、結果として仕事も不安定であるし国民健康保険などの医療保険すら満足に受けられず、結果として結核などの伝染病や精神の病が一般化してしまう。最後のセーフティネットである生活保護ですら住所=住民票を持っていない事や一見健康に見える、とりあえず働いてるなどの口実で相談すら門前払いされる事が未だに横行している。*1
自己責任で済ませられない
この、派遣切り労働者に対する松沢知事の非常に冷酷な仕打ちは彼が信奉して止まない新自由主義経済思想やアメリカ的なドライな自己責任原則*1と言う物に裏打ちされている物ではないでしょうか。
この間のこの問題での知事の定例記者会見での発言や政治的な動きを見ていても、日産・いすゞ・ソニーなどの大企業に派遣されてきた労働者が住居を失ってしまって、この問題に取り組んでる人から声が上がったことに対して嫌々ながらに「救済」してやってきたようにしかみえないし、それは県の住宅当局も県の資産をゼネコンなどに売却していきたい流れであるのですから似たような物でしょう。
しかし、経済も政治も下に立つ人たちが一番多く支えている事は県立高校での政治参加教育を進めよと数週間前にトップダウンで命じた知事も分かってるはずなのですが、しかし、その認識は歪なのか、最下層に置かれてる労働者や仕事で病んでしまった人間に対して非常に冷淡です。元からそういう人間など自己責任で野垂れ死んでほしい・政治参加も下手にしないで欲しい。とでも言いたいかのような発言がこの件以外でも余りに多すぎる。